早間 玲子 G.E. Architecte Desa & Duny
フランスでは、建築家は絵画・彫刻と同様文化省管轄ですが、後者との大きな相違点は、発注者無しには殆ど実現出来ないことです。1983年夏、私はキャノン・ブルターニュ工場設計のご依頼を戴きました。キャノン・ブルターニュ創始者・えの目社長(「えの」の漢字は「魚」へんに「援」のつくり)は、敏腕・率直・おおらかで声も大きい方でした。専門家としての知識と経験を認めて戴いたとはいえ、今から20年以上も前に、大組識のバックを持たない一女性に工場の設計監理を発注なさることは、自己判断への確信は勿論のことながら、大きな勇気をもって決定されたと思います。第一期工場は、えの目社長の敏速な御決定を戴いて、ご期待通りの工期・予算を厳守して無事竣工するに至りました。二期・三期工事と引き続き竣工して、社員食堂を含む現在の原形が出来あがりました。この工場設計の実績は、その後ヴォージュ地方のミノルタ工場、オルレアン・日立コンピューター工場、ブルターニュのサンデン工場設計監理などの大型工業建築設計へのご発注に展開していきました。えの目社長は1994年、享年62歳で逝去され、優れた実業人を失いました。人生にはそれぞれ節目がありますが、私にとっては工業建築への出発点をつくって下さったばかりか、実に楽しく効率よく仕事を進めていくことが出来た生涯忘れ得ぬ建築主として、このホームページをお借りして心からご冥福を祈念する次第であります。
2005年3月8日付け