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ビストロノミーの世界
  株式会社 クールアース

秋田 博一

プティ・ルベイ。3年分揃いました。

私の勤務先はクールアースと申しますが、こちらで名刺交換させて頂くと「失礼ですが何の会社ですか・・・?」とほぼ100%ご質問頂きます。しかし「アンリ・シャルパンティエ」と申し上げれば、ご存じの方もいらっしゃるのではないかと。日本ではデパ地下を中心にパティスリーを展開しております。パリでは6区にテストキッチンを併設した研究所を構え、オテル・ド・クリヨンの元シェフ・パティシエだったクリストフ・フェルデール氏と技術提携し、彼とともにケーキや焼き菓子の商品開発に取り組む毎日です。

2008年ストウブ=ルベイ・ビストロ大賞の某店にて。フランドル料理のワーテルゾーイ。

食の世界の仕事、特に料理や菓子はフランスが本場、そういう仕事でフランスへ来られた方の中にはオンオフの境目がない方も多いと思います。私もそのひとりで、土日もパティスリー・ブランジュリー巡りや、レストラン・ビストロでの食べ歩きを楽しみにしています。食べることが勉強になるのですから、ある意味幸せな仕事かもしれません。

フランスはグルメ批評が確立されていて、ミシュランやゴー・ミヨーをはじめ様々なグルメガイドがあります。その中でも私が気に入っているのは「Le Petit Lebey des bistrots parisiens」、プティ・ルベイというパリのビストロ専門のガイドブックです。レストランではなくビストロというのがミソで、それをミシュランよろしくココット鍋のマーク3つで格付けしており、加えて毎年、新店から「ビストロ大賞」を選出しています。こちらに赴任してきて2ヶ月ほど経った頃に事務所のスタッフから教えてもらい、それからすぐビストロ巡りにはまってしまいました。毎年2月に改訂版が出るのですが、手元のプティ・ルベイも今では3冊目、訪ねたビストロは優に煩悩の数を超え、日本へ残してきた家内へ話すことのできない趣味になってしまいました・・・。

数年前からパリでは気軽なビストロがブーム、パラスホテルの星付きダイニングなどで修業をした若手の料理人が、今も次々と街場に自分のビストロをオープンさせています。料理のクオリティはガストロノミー、でもお店の雰囲気と勘定はビストロということで「ビストロノミー」と称されるようになったとか、ムニュなら30ユーロ程度でクリエイティブな料理を楽しむことができます。6区「ル・コントワール」、7区「シェ・ラミ・ジャン」、10区「シェ・ミシェル」、14区「ラ・レガラード」、15区「ル・トロケ」、15区「ロス・ア・モワル」、15区「ブール・ノワゼット」・・・このあたりのお店がビストロノミーの代表格、もはや老舗でしょうか。これらのお店のオーナーシェフは、クリヨンでの修業経験があり先述のフェルデール氏と同僚だったという方も多く、それが私にビストロへ興味を抱かせている理由のひとつでもあります。そしてビストロノミーのお店は人気も半端ではなく、不況なんてどこ吹く風、連夜2〜3回転というお店も少なくないようで、予約を取るのもひと苦労です。

2009年ストウブ=ルベイ・ビストロ大賞の某店にて。オーブラック牛のステック・タルタル。

そういうビストロノミーのお店を、日本からの来客に視察先としてリクエストされることもあり、何とか予約を入れてご案内致します。が、どうも喜ばれないことが多いような気がします。席はぎゅうぎゅう詰め、少人数でサービスをまわしているため、本格的なフランスレストランの雰囲気を期待される方や、日本同様の細やかなサービスに慣れた方には物足りない点があるのかもしれません。結局、来客にはミシュランの星付きレストランをお勧めし、ビストロノミーのお店は自分のために行くというのが私のパタ−ンになっています。今では待つことを厭わなくなりましたし、隣のテーブルから胡椒を借りるのにも慣れました。注文したものと違う料理が出てきてもCe n'est pas grave、それなりに楽しめるようになりました。

ビストロ巡りによる思いがけない効果もありました。いまだ一向に上達する気配のない私のフランス語ですが、好きこそものの上手なれ、この分野のフランス語だけは経済特区のようなめざましい成長を遂げ、ビストロであれば電話予約から手書きの黒板メニューの解読、サービスの人へイレギュラーな注文をする会話までできるようになったのです。まあ何だかんだ申しまして、結論としては食い意地が張っているということなんでしょうか・・・?

2010年7月19日付け