CCIJF – 在仏日本商工会議所

東京ガス 山本拓郎

皆様、「LNG」と言う言葉を聞いたことはありますか?
昨年発生したロシアのウクライナ侵攻後、初めて目にした方も多いのではないかと思います。
LNGとは、「液化天然ガス(Liquified Natural Gas)」の略語です。
LNGの原料は天然ガスです。天然ガスは一般的に地下深く眠る化石燃料の一つで、都市ガスや発電の用途として、多くの国で利用されているエネルギー源です。
石油や石炭に比べて、天然ガスは世界に広く分布しており、埋蔵量も豊富、化石燃料の中では最もクリーンなエネルギーです。あいにく我が国は埋蔵量が少なく、その大半を輸入に依存しております。

天然ガスを輸送するには、主にパイプラインと船の2つの手段があります。
天然ガスをパイプラインで輸送する場合は気体のまま、船で輸送する場合は天然ガスを液体にします。天然ガスを液体に変化させる理由は、気体に比べて体積が600分の1になるため、輸送効率が大幅にアップするためです。ちなみに天然ガスを液体にするための温度は摂氏マイナス162度の超低温です。

ロシアのウクライナ侵攻を巡って大きな問題となったのが、ロシアから欧州への天然ガス輸出です。日本と同様に、欧州諸国は天然ガスを重要なエネルギー源として利用しておりますが、その多くをロシアからのパイプライン輸入に依存しておりました。しかしながら、昨年2月にロシアによるウクライナ侵攻が発生した結果、ロシアに対する経済制裁やロシアの対抗措置等により、ロシアから欧州へのパイプライン輸出は大幅に減り、欧州諸国はエネルギー不足に陥る危機に晒されました。大幅に減ったロシアからのパイプライン供給を補完するため、欧州諸国は天然ガスから他エネルギー源にシフトしたり、省エネを促進したり、高需要期である冬場に向けて貯蔵を促進したり、国家間での連携を進める等、EUレベル・国レベルであらゆる措置が講じられました。そしてロシアからのパイプライン輸入減を補完するもう一つの手段として取られたのがLNG輸入です。昨年の欧州のLNG輸入量は過去に例を見ないほど爆発的に伸び、LNGは欧州のガス不足解消に一役買ったのです。

最後に、LNGの歴史と日本のLNG事情について少し触れさせていただきます。LNGは1959年に米国からイギリスに向けて世界最初の海上輸送が実験的に行われ、その後1964年に世界最初の商業輸送がアルジェリアからイギリスに向けて行われました。我が国で初めてLNGが輸入されたのは、今から半世紀ほど遡る1969年です。当時日本で利用されていたエネルギー源は主に石炭と石油でしたが、首都圏は公害問題が深刻化しておりました。首都圏に青空を取り戻すべく、エネルギー供給責任を担っていた都市ガス会社と電力会社は、より環境負荷の少ない天然ガスに注目し、LNGの導入に踏み切りました。その後日本のLNG輸入量は年々拡大し、一時は世界のLNG取引全体の8割近くを占めるような時期もありました。天然ガスをLNGという形態で輸送できるようになったお陰で、その後は世界の天然ガス需要は伸び続け、今では多くの国の基幹産業を支えております。

みなさんが日々の生活で何気なく使っている家の電気や暖房、テレビやシャワー、通勤時の電車や車もすべてエネルギーによって動いております。最近は「脱炭素化」や「カーボンニュートラル」という言葉を目にすることが多いかと思いますが、これらの実現に向けて、エネルギー業界としても様々な取組を行っております。ぜひお暇な時にでもエネルギーについていろいろと調べてみてください!

以上