商社:鈴木 紀之/丸紅インターナショナル(欧州)
欧州(経済全般、政治・外交)の見通し
新年明けましておめでとうございます。
2023年も在仏日本商工会議所会員各社のご繁栄と、会員各位並びにご家族の皆様のご健勝を心より祈念致します。
2022年は前年から続くエネルギー価格の高騰に、感染力の強いオミクロン株の急拡大が追打ちをかけるようにして幕を開けた後、2月にロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まり、政治・外交・経済環境が一変しました。
尾を引くCOVID-19の影響に加え、エネルギー価格高騰、戦争によるグローバル・サプライチェーン寸断の三重苦により、急激なインフレが進み、生活面では個人消費の手控え感も見られましたが、ロックダウン中に膨らんだ貯蓄を積極的に消費に回す傾向も強く、中央銀行による相次ぐ政策金利引上げにも拘らず、統計上はそれなりの景況感で推移しました。
2023年は、ウクライナでの戦争が長期化し、エネルギー価格の高止まりも確実視され、企業活動が引続き抑え込まれる見通しです。個人消費でもロックダウンの反動需要がそろそろ息切れし、欧州では2023年前半から軽度のリセッションに、インフレとの共存という点ではスタグフレーションに陥ることがほぼ確実です。中国の「ゼロ・コロナ政策」の緩和はインフレの供給要因の解消という観点では好材料ですが、世界のエネルギー需給をタイトにし、欧州に更なる原油・ガス価格値上りの波が押し寄せるネガティブ要因でもあります。
こうした経済環境の急激な悪化は各国有権者の不満につながっており、2022年に欧州のいくつかの国で見られた首相交代等の政治変革の動きは、2023年もその傾向が続くと見られます。また、フランス・英国をはじめ欧州各地で見られたデモや大規模なストライキも、解決策が見えない中、当分は各地で続くと思われ、そうしたDisruptionは、企業の生産活動や人々の行動を妨げ、経済の更なる下押し要因となります。
一方、ロシア・中国との関係については、欧州は米国ほど極端な姿勢を取っておらず、2023年も継続すると見られます。対ロ外交では、特にマクロン大統領は機が熟せばいつでもプーチン大統領と対話ができるように配慮しています。中国に関しては、日本では「EUは背に腹は代えられず中国との経済関係をこっそり維持」というトーンで伝えられることが多いようですが、EUが懸念しているのは太陽光パネル・電池・希少金属等の戦略品目の過度な中国への供給依存であり、米国が主張しているような完全なデカップリングではありません。
多様な民族・文化・政治体制・通貨等を包容するEUは、打たれ強い存在であり、単一市場の規模と環境・人権等に係わるルール・メークによって米中に対抗しうる地政学的優位性を築く動きも継続するでしょう。2023年は不安材料が尽きず、不確実性の高い状況が継続する見通しですが、EUによる新ルールの適用も着実に進むであろう中、緊張感を持って準備を整えつつ、変革期における商機の見極めを行ってゆく年となるのではないでしょうか。
追記: ルール・メークが得意な欧州の「理想論」が矛盾を招いているようにも見えます。例えば、ガソリン・エンジン車廃止を最優先するのか、それともグリーンな電力で生産されていない、或いはサプライチェーンに人権上の疑念のある電池を使ってまで電気自動車にシフトしない方がよいのか。。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
丸紅インターナショナル(欧州)
鈴木 紀之