CCIJF – 在仏日本商工会議所

ICT(通信・IT)業界: 大坪 寛/Transatel(NTT Ltdグループ)

2023年 ICT(通信・IT)業界展望

新年明けましておめでとうございます。
在仏日本商工会議所会員の皆様、そしてご家族の皆様に謹んで新春のお慶びを申し上げます。

さて、これから触れる業界展望は2023年に限定されるものではありませんが、ICT業界から以下の3つのトレンドを取り上げます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)

この数年、DXというキーワードを目にしない日はないのではないでしょうか? COVID-19により2ヶ月で2年分のDXが進んだと言われていますが、とりわけ働き方(テレワーク、決裁、勤怠管理等情報の伝達・管理)の変革で急速に進んだDX、産業界では、毎年、年間売上高の少なくとも5%をDXプロジェクトに費やしています。IDC の予測によると、2025 年までにDX 技術とサービスは世界で2.8 兆ドル規模になると予測されていますが、DXは、メディアやエネルギー、ヘルスケア、輸送に至るまで、あらゆる業界に変革をもたらしています。企業は、働き方、労働力、さらには職場さえも再考することが不可欠であり、DXへの投資により、パフォーマンスを向上させ、収益を最大化し、運用コストを削減、さらには次の危機に備えることができるようになります。これは2023年も大きなトレンドとして継続するものと思われます。

メタバース

最近よく耳にするようになったメタバースとは、仮想的に拡張された物理的現実とデジタル化された現実の融合によって創り出される集合的な仮想共有空間です。米ブルームバーグによると、ソーシャルメディアなどの周辺業界も含めた市場規模は55兆円、というのには驚きですが、2024年には90兆円を突破する可能性も示されています。一方でどうしてもゲーム要素が先行してしまうイメージですが、広義のメタバースでは、製造現場、オンライン教育、土木・建設、リテール、医療、旅行と様々な業界での取り入れが期待されており、2027年までに世界の大企業の約40%以上が売り上げの拡大を目的としてメタバースを軸とした事業を展開する、と予測しているアナリストもいます。2022年がメタバース元年か?とも言われましたが、2023年は今後の市場成長が試される1年になるでしょう。

持続可能性(サステナブル)

長期にわたって業界トレンドの上位に位置づけて欲しいのはサステナブルです。
将来の世代を念頭に置き、環境への影響を考慮しなければならないのは全業界に共通する待ったなしの命題です。この地球温暖化の深刻化を実感するようになった今、多くのアナリストや批評家が、デバイスやITインフラ、それらを接続するネットワークに関する予測においても環境への配慮を盛り込んでいます。具体的に進んでいる例では、Appleが2030年までにサプライチェーンの100%でカーボンニュートラル達成を約束する目標を発表しました。通信事業者によっては、主要な通信を全て光ネットワーク化することによる電力消費の大幅な削減や、太陽光発電を利用したグリーン基地局を利用しカーボンニュートラルに向けたグリーン5Gの提供を始めています。
もう少し身近なところでは、スマートフォン等で使われているSIMカードもデジタル化が進められ、eSIMという物理SIMカードに取って代わる技術が浸透し始めています。2022年秋にAppleが発表したiPhone 14(北米モデル)は、物理的なSIMカードを挿れるスロットがなくなり、eSIMのみとなりました。これによりSIMカードに必要なマイクロチップとそれをパッケージするプラスチック、紙、物流が不要になり、SIMカードが年間45億個(2020年時)製造されていると考えれば、通信事業者の環境フットプリント削減への寄与も小さくないはずです。
こうしたサステナブルの動きは2023年も大きく加速すると予想されます。

本年も何卒宜しくお願い申し上げます。

令和五年 元旦

Transatel(NTT Ltdグループ)
大坪 寛