コンサルティング・メディアコンテンツ・サービス:桜井 玲子/サクラ・コンサルティング
新年明けまして、おめでとうございます。
在仏商工会議所会員各社の益々のご清栄と、会員のみなさま、そしてご家族のご健勝をお祈り申し上げます。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機は、欧州・フランスに脱炭素化への加速を強く決意させることになりました。同時に、再生可能エネルギーへの転換に水素が不可欠という認識が広く共有されるようになりました。
日本ではあまり報道されないフランス水素事情ですが、パリ市内ではすでに数百台のトヨタ・ミライがFCVタクシーとして日常的な風景になってあり、フランス全土での水素ステーションも22年末の時点で58か所をかぞえ、3年後には設置数が225か所と見込まれています。
水素技術の実装を顕彰するコンクール「ハイドロジェニー賞」主催者として、フランスにおける水素分野のこの一年を振り返り、また2023年の見通しを概観させていただきます。
2022年、欧州委員会はまず5月にロシアの化石燃料への依存を早急に縮小し、グリーン移行を加速させる「REPowerEU」計画を提案しました。7月には欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)は、Hy2Techという名称で水素製造テクノロジーに関する41のプロジェクトに最大で54億ユーロの公的助成をすることを承認しました。欧州15か国から選ばれた41のプロジェクト、そのうちフランスにおける10件のプロジェクト、には、9月にエリザベット・ボルヌ首相から、フランス国家として21億ユーロの支援が発表されました。2023年にはこれら水電解装置製造や、素材開発、大容量モビリティなど、水素の基幹産業とも言える技術に欧州と国の助成が決まり、32億ユーロの民間の投資を合わせて受けて、順次実現されてゆくことになります。その効果は、フランス7つの地域圏において5200人の直接雇用を生み出します。
9月にはフォンデアライアン欧州委員長から、水素市場を形成するための公的金融機関(通称水素バンク)の設立が発表され、続いて異なる分野での水素使用(交通インフラのための大規模電解装置、低炭素水素の製造・貯蔵・運搬、異なる産業分野で水素を使用することによって脱炭素化を図るためのイノベーティブな技術)に関する35のプロジェクト(うちフランスの案件は2)に最大で52億ユーロの助成が承認されました。この助成の名称はHy2Useと言います。
一方、来る10年で炭素排出量を半減し、2050年にゼロエミッションを実現するために、マクロン大統領は、ブリュノー・ルメール 経済・財務・産業主権・デジタル相、アニエス・パニエ⁼ルナッシェ エネルギー転換相、ローラン・レスキュー 産業担当相に2023年上半期のうちに水素国家戦略のアップデートをすることを命じました。改定された戦略は現在の地政学的に危機的なエネルギー状況に喫緊に対応するものとなると予定されています。
この改定戦略では、すでに大統領が発表した水素ハブの運用計画が提案されるでしょう。これらのハブ拠点に水素の生産が集約されることで、コスト削減が可能になり、その結果、工業の脱炭素化が大きく推進されると考えられます。
また、これらの拠点を低炭素電力にアクセスさせることも、この仕事の課題です。
この戦略には、フランスが急速に成長する世界市場で重要な地位を確保するための水素関連設備・機器のマスターも含まれなければなりません。
ちなみに、フランスは先進国の中でいち早く、2018年に水素計画を、2020年に国家戦略を採択しています。注目すべきは 2020年以降に水素分野で実現されたしたプロジェクトの目覚ましい発展のため、戦略の見直しが必要となったのです。
2月1-2日にはポルト・ド・ヴェルサイユで、水素技術の展示会HYVOLUTIONイボルーションが欧州最大規模で開催されます。最新の技術、また有力な地域圏でのプロジェクトの数々をご覧いただくことができます。
ハイドロジェニー賞は、5月23-25日にボルドーで開かれる第24回欧州エネルギー転換会議(AETE)の期間中に表彰式が行われます。エネルギー転換の主役である地方自治体とエネルギー企業、またエコロジー転換庁ADEMEとの年次ミーティングである会議の中で、ADEME長官やフランス水素協会会長、また地方自治体の首長の方々と一緒に、今年最高の水素プロジェクトを一望していただくことができます。日本の技術の参加も大きく望まれている分野です。ぜひ皆様のおいでをお待ちしております。
サクラ・コンサルティング
水素コンクール・ハイドロジェニー賞主催
桜井玲子