CCIJF – 在仏日本商工会議所

第二十七回:逆流性食道炎のお話

食後の胸焼け、胃のもたれ…悩んでいる方もいらっしゃるのではないのでしょうか。

これらの症状の原因となる病気の一つに逆流性食道炎があります。

逆流性食道炎とは、胃から食道へ胃酸が逆流する病気です。胃酸の主成分は塩酸で、食べた肉を溶かしどろどろにしてしまう程のとても強い酸です。胃壁はそれに耐えられるようになっており、正常な場合胃と食道の間にある括約筋が横隔膜とともに胃酸が食道に逆流するのを防いでいます。胃酸の食道への逆流(胃食道逆流:GER)とは、なんらかの原因で胃と食道のつなぎ目を閉じる作用が弱くなったために起こる現象です。本来、食道は中性ですから食道粘膜には胃粘膜と異なり、強い胃酸に対しての防御機能がありません。その食道に胃から胃酸が逆流することにより、症状が起こってくるのが逆流性食道炎です。具体的には食道裂孔ヘルニア(胃の一部が胸部に張り込んだ状態)・加齢・食事の内容・肥満・姿勢などによって、食道を逆流から守る仕組みが弱まるか、胃酸が増えすぎることで胃液が食道に逆流するために起こります。

胸焼け、胃もたれ以外にも、胸痛、背中の痛み、慢性の咳や、のどの違和感などの多くの症状が胃食道逆流と関連していることもあります。病状がひどくなると、食道潰瘍となり吐血をする人もいます。

逆流性食道炎の診断方法は2つあり、一つ目は診断的治療を行う方法です。症状から逆流性食道炎を想定し、胃酸の分泌を抑える薬を内服し、2~4週間後に治療効果をみるという方法です。このやり方の問題点としては、同様の症状を引き起こす他の病気(胃潰瘍、胃がん、食道がんなど)であった場合でも症状が一時的に改善し、診断が遅くなる場合があります。そのため基本的には、2つ目の方法である治療前に胃内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが推奨されております。直接食道粘膜の状況を確認することで、確定診断し、さらに重症度を考慮した治療を行うことができます。

治療としては、現在では薬物療法・生活指導が主体です。治療に使用される内服薬は、胃酸の分泌を抑制する薬、胃や食道の食べ物を送り出す運動を亢進させる薬、食道・胃の粘膜を保護する薬があります。特に、胃酸の分泌を抑制するものは治療効果が高いと報告されています。また、他の薬剤も酸分泌抑制剤と併用することで治療効果が上がることが知られています。また生活指導としては、食後逆流しにくいように食後すぐ横にならないことや、腹圧の上がるような前かがみの姿勢を避けたりすることである程度の予防や治療が可能です。肥満が関係している場合は、もちろん体重管理も大切です。逆流を起こしやすい嗜好品(アルコール、ブラックコーヒー、たばこ、油もの、炭水化物、酸っぱいものなど)もあるので、食事内容などを見直す必要もあります。外科的治療は、薬物治療の効果が乏しい場合や、食道炎が重症化して食道が狭くなったり、出血を繰り返したりするような方に検討されます。

逆流を繰り返していると食道粘膜が変質してバレット食道と呼ばれる状態になることがあります。バレット食道になると食道がんを発生しやすくなるという報告もありますので、あまり逆流を放置しないほうが賢明です。